アカデミックホームステイに参加したある中学生のホームステイ記録(日記)です。彼女がホームステイの中で、何を感じ、何を思い、何を考え、何を得たのか。

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■ はじめに 目次 登場人物
■ 01日目 07月31日
■ 02日目 08月01日
■ 03日目 08月02日
■ 04日目 08月03日
■ 05日目 08月04日
■ 06日目 08月05日
■ 07日目 08月06日
■ 08日目 08月07日
■ 09日目 08月08日
■ 10日目 08月09日
■ 11日目 08月10日
■ 12日目 08月11日
■ 13日目 08月12日
■ 14日目 08月13日
■ 15日目 08月14日
■ 16日目 08月15日
■ 17日目 08月16日
■ 18日目 08月17日
■ 19日目 08月18日
■ 20日目 08月19日
■ 21日目 08月20日
■ 22日目 08月21日
■ 23日目 08月22日
■ 24日目 08月23日
■ 25日目 08月24日
■ 26日目 08月25日
■ 27日目 08月26日
■ 28日目 08月27日
■ 29日目 08月28日
■ 30日目 08月29日

筆 者: 濱 田 純 逸

●08月29日 金曜

ものすごく寒いんだろうなあと想像していたのにあまりかわらなかった。そしてここを飛び立つ時、すばらしい風景が見られた。雪をかぶった白い山が【注123】ずっと続いているのが雪のきれ間からちらちら見える。最高だった。アンカレッジ空港ではトラベラーズチェックを使うのに神経を使った。四十ドルのチェックをワッペンとさいふを買ってくずした。ここではなぜか日本円が通用してびっくり。店員もみんな日本語。そう言えばアンカレッジからの飛行機でもスチュワーデスが日本語。なんだかおもしろくなかった【注124】。日本にいるみたいで。機内ではみんな写真撮りかよせ書きか【注125】・・・。私も書いてもらったら、きたないこときたないこと。ノートまでやぶけていた。機内食は二回食べた。一日で五回ぐらい食事をしたことになる。(本当は二日だけど。)おなかまんぱいまんぱい。今、成田、東京にいる。ホテルの中。成田空港をちょっとはなれるとすごいいなかで高山町【注126】をはしっているみたいだった。花の東京にいるなんて信じられない、外は静かで。明日は六時起き、久しぶりに父さん母さんに会える、うれしいなあ。でも学校がすぐ始まるのがちょっと気がかり。宿題はあきらめて、作文だけは【注127】がんばって書こうと思っている。

注123
ワシントン州のレニア山やベーカー山などのノースカスケード山脈だろうと思われる。夏であっても頂には万年雪が積もっている。
注124
最後の日であるが、ここでも当然のことながら、注088で指摘したように、自分の周囲にある日本文化に直結したり、その延長にあるものに対して否定的である。最後の最後まで、異文化の環境に身をおいていたいという素直な感情が伝わってくるくだりである。日本文化が周囲に見えれば見えるほど、ジムやキャシーやラナやキムの存在が、だんだんと薄れていくのを実感してしまうためでもあろう。中には、日本に到着しても、腕時計を次にアメリカに行くときまで、このままアメリカ時間にしておくという参加者も数多く見られる。さらには、ホストファミリーの家のアイスクリームがおいしかったため、次にアメリカに行ってホストファミリーの家のアイスクリームを食べるまで、日本では絶対にアイスクリームは食べないと決意して、実際にそれを実行した参加者もいる。いずれも、適応した異文化に忘れがたいほどの思い入れがあることの証拠であろう。
注125
冒頭に説明したように、これが私とこの日記との出会いである。
注126
彼女の住んでいる町である。すなわち、鹿児島県肝属郡高山町が、彼女の住んでいる町である。
注127
8月16日の日記のところで紹介したのが、この作文のことである。

 

あ と が き
以上が彼女の日記の全部である。出発から帰国の日まで30日間に及ぶその内容は、ほぼ毎日その日に書き記されている。それだけに一日一日の表現が素直に、的確に描写され、30日間の全体を見直したときに極めて整合性のある、心の変化の推移が手にとるように理解される記録となっている。プログラムを通して彼女が得たものは、彼女しか知ることのできないものであろうけれども、この生活記録を克明に読めば、ある程度の類推は可能である。その中で全体を通して流れているものは、彼女が奇しくも帰国後の作文に書いているように、「トライすることの大切さ」を彼女は非常に感じていることである。8月16日にある「ホストファミリーはどんどん危ないことをやってのける。日本人だったら、絶対子供にはやらせてくれないだろう。これが外人のいいところかな。Tryの精神が強いのか。日本人はあまり先のことを考えすぎるみたいだ。私がその代表かな?」などの述懐は、その象徴的なものであろう。また、8月3日に書かれた電話をかけるのに「勇気がでなくて、ベッドで泣いてしまった。」などの体験からも得られたのは、トライすることの大切さであることは間違いない。

心配性で、消極的な性格であると彼女は自認している。そして、これらの性格を矯正することが、このホームステイ参加の目的でもあったと書かれており、それは彼女の保護者の目的でもあったようである。もちろん、わずか一ヶ月間の生活で人の性格が劇的に変化するとは考えていない。しかしながら、成長期の十代に体験する実感や価値観は、その後の人生に大きく影響することは間違いない。そのきっかけとなる体験であれば、それは明らかに時間の経過と共に、隠然たる影響を与えるであろう。「まずは試みること」と身をもって痛感した彼女の人生が、その後、常にその強い意識の中で働いていることは間違いないだろう。その中から得られる結果がどうであっても、このような生きる姿勢がある限り、その人生において彼女は後悔することはなかろうと思われる。そして、それらの価値を彼女が自らこのホームステイを通して学んでくれたことが、私達、主催者としては最も嬉しいことであり、極めて勇気付けられるものであった。このことをもってして、私は彼女に心から敬意を示す一人であり、センターのこのプログラムに参加してくれて有難うと心底から感謝するものである。


登 場 人 物
中学二年生のホームステイ参加者/鹿児島県出身 田中みゆき
ホストファーザー/ワシントン州シアトル市在住 ジム アレトン
ホストマザー キャシー アレトン
7歳の双子の姉 ラナ アレトン
7歳の双子の妹 キム アレトン
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