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筆 者: 濱 田 純 逸
●08月01日 金曜
父さん、母さんに手紙を書いたら自然に涙が出て【注004】きちゃった。今まではりつめてた糸がゆるんだみたいに。キャシーは、若い女性だったし、双子の姉妹もすごくかわいかった。ラナは金髪で、キムはくり色に茶色の髪をもっていた。すごくうれしかったのは、この子たちの部屋に「Welcome!!」【注005】と書いてあったことだ。感激してしまった。この家は、本当に、ごく普通の家庭みたいだ。せまい庭にじゃがいも、トマト、いちご等が植えてあった。なんと、そのすみの方に、竹がたくさんおいしげっていたのは、また、たまがったぜ!!ペットははつかネズミ、ウサギがいた。動物も好きらしい。街でびっくりしたのは、小さな女の子がすごくませていて、色気プンプンさせていることだ。それに小さな発見【注006】もしたぞ。マネキンの髪の毛の色は黒だったのだ。なんだかそれ見たら楽しくなっちゃった。ハンバーガーとコカ・コーラの昼食がすごくおいしかった。友達もついにできちゃったのだ。
注004 |
到着後の数日、参加者のほとんどがこのように、夜一人になると、寂しさから涙を流すのであろう。先述した長い緊張の連続から解き放たれた安堵感と、日本への郷愁から「自然に涙が出る」のであろうか。特に、手紙を書いたり、日記を書いたりなどの内省的な行為をするときは、感情的になり、望郷の思いが募るものである。これらの行為がホームシックの遠因となったり、きっかけになったりするものである。また、日本の両親や家族から電話が来ると、それを契機にホームシックが始まるケースは非常に多い。 |
注005 |
このようなもてなし方が、典型的なアメリカ流の歓迎方法である。特別なご馳走をするわけでなく、すぐに名所に連れて行くのでもなく、山のようなプレゼントを渡すのでもない。到着時の集合場所で待つホストファミリーの歓迎の仕方は、いたって簡単である。花束を持っている方、「Welcome
Miyuki」などと手書きで書かれたプラカードを抱えている者、風船を持っている人、紙ふぶきを作ってもってきた方など、ほとんどの方々が手作りの歓迎である。彼女が感激したように、このささやかな心のこもった方法に、多くの参加者が心を奪われてしまう。 |
注006 |
ただ漫然と異文化の中で過ごすのではなくて、細かな観察力を持って生活していることが窺える。この日記には、異文化の中で体験した相違や違和感、困難や苦悩をしっかりと受け止めて、それに前向きに、向上的に対応していこうとする姿勢がいたるところに散見される。また、マネキンの髪が黒色であったことに、ただ素直に、「楽しくなっちゃった」と記す彼女の感性から理解できるものは、精一杯に片意地張って、呉越同舟の異文化に向かい合ってたもう一人の彼女自身がいたということであろう。すなわち、自分と同じ色の髪の毛を持つ人間だけではなく、マネキンすらもそうであったことで、黒い髪を持つ自分が異分子ではなく、同じ空間にいる人はたくさんいるんだということを実感して、勇気付けられたのであろう。だから、単なる「それをみたらうれしかった」のではなく、「楽しくなっちゃった」と、表現したのであろう。
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登 場 人 物 |
中学二年生のホームステイ参加者/鹿児島県出身 |
田中みゆき |
ホストファーザー/ワシントン州シアトル市在住 |
ジム アレトン |
ホストマザー |
キャシー アレトン |
7歳の双子の姉 |
ラナ アレトン |
7歳の双子の妹 |
キム アレトン |
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