ホームステイとは何なのか。ホームステイでは何が得られるのか。40年以上にわたって、国際交流教育事業に関わってきた南日本カルチャーセンターによるホームステイの現状と提言です。

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■ 1 変わりゆくホームステイ
■ 2 変化の背景
■ 3 ホームステイプログラムと
    ホームステイツアー
■ 4 ホストファミリーへの影響
■ 5 一般的な参加者の現状
■ 6 参加者と主催者に求められるもの
■ 7 異文化では、始めにトラブルありき
■ 8 最後に

執筆者: 南日本カルチャーセンター 代表取締役社長  濱 田 純 逸

■ 5 一般的な参加者の現状

 それでは現実問題として、一般的な参加者がいわゆるホームステイに参加した場合に、ホストファミリーとの家庭生活では、どのような事態が発生して、どのような展開になるのかを、具体的な事例で紹介してみましょう。

例えば、アメリカに到着したその日に、参加者はホストファミリーと出会って、すぐに引き取られていき、彼らの車で家に向かいます。それまでは、日本から一緒にやってきたグループの友達がいましたので、そこまでの弧絶感はなかったものの、その車の中で完全な異邦人の状態が始ります。極度の興奮と恐怖に襲われる時間と車の中の異国の空間です。参加者は、初めて向き合う生の英語のスピードに、全くついていかれずに、唖然とするだけです。強烈な不安に心臓はパクパク、顔に冷や汗、手は冷たくなります。車は家に着いて、家族を紹介され、小さなホストブラザーの英語はさらに分りません。そして、夕方、家族そろって最初の夕食です。食事をしながら、次から次に放たれるホストファミリーの英語の質問に、参加者はどれだけ英語で返事をするでしょうか。彼らは、ただひたすら「イエス」「イエス」と応えるだけです。食事が終わって、家族のだんらんです。今日あった出来事をいろいろと話すかもしれません。その会話にどれだけ彼らが参加できるでしょうか。これもまた、ほとんど全く理解できずに、彼らの会話を聞いているだけで、時折、自分に向く会話の矛先に、先ほど同様、「イエス」「イエス」と連発しているに過ぎません。気まずい空気と白けた時間に、自分の居場所すら見つけられません。来る前に想像したファミリーと会話している自分の姿が、いかに現実離れした空想であったかを思い知らされます。そして、長旅の疲れもあって、一人ベッドの上で、何故こんなところまで来てしまったのかという後悔と、こんな状態で残り一ヶ月を過ごすのかと考えると、恐ろしいほどのホームシックを感じるのです。でもほとんどの参加者はこの時、ホストファミリーだって同様の困惑の中で時間を過ごしていると言うことには気がつきません。つまり、ホストファミリーにしても、事前に聞かされていた以上に、日本の子ども達と英語でコミュニケーションができないことに、天を仰ぎ、絶句し、これから先の一ヶ月間を考えると、恐ろしいほどの不安で一杯になっているのです。

ほとんど全員の参加者が、そして、ホストファミリーが、大なり小なり、以上のような状況の中でホームステイの体験をスタートさせています。もちろん、参加者の性格によって大きな相違もありますし、一人で滞在するか、二人でホームステイするかによっても、このような状況は大きく変化はしますが、概して、ホームステイ第一日目は、このような調子で終わっていき、二、三日間はこのようなぎこちない生活に終始するのが典型的なホームステイの初期の状態です。

でも、これから先が参加者によって大きく異なります。事前に学習してきた者、事前に準備をしてきた者、つまり、事前の指導を受けてしっかりと実践する参加者と、そうでない者の差は極めて大きく、その体験内容も次のように展開していきます。

事前の指導に不勉強であった参加者の場合、そんな初期の状態が続いた後、英語のほとんど苦手な高校生や大学生になると、話し掛けられたり、尋ねられたりすることが恐くなったりする者もいます。そうすると、笑いでその場を取り繕い、それでごまかせる期間はせいぜい三、四日程度で、一週間もする頃には、食事が終わったら、自分の部屋に戻り、内側から鍵をかけて閉じこもるようになります。ホストファミリーがドアをノックして、リビングに来るように促しても、それを断わる理由は次の三つに集約されます。一番目は「手紙」を書いているから忙しいという拒絶。二番目は「日記」を書いているから行かれないという拒絶。三番目は「宿題」をしているから忙しいという拒絶です。そうすると、ホストファミリーから、お世話している生徒には、交流を行なおうとする姿勢が全く見られないという苦情がきます。翌日、センター職員は、その参加者と会い、カウンセリングを行なうわけです。「なぜ、部屋に閉じこもってばかりいるの?」とたずねると、なぜそんなことを知っているのとびっくりした顔をしながら、「だって英語が分からない」という返事が返ってきます。「英語が分からなくても、交流をする姿勢が大切だよ。」と様々な事例を挙げて指導していきます。それを素直に受け入れて実践していく生徒は、時間の経過とともにホストファミリーとの生活に適応して、異文化学習に熱心になっていきます。それができない生徒の場合、楽しみは学校の時間に移っていき、一緒に来た日本人のお友達と過ごす時間になります。日本語で何を買ったの、どこへ行ったのという話しが始まり、挙げ句の果ては、自分のホストファミリーはどこにも連れて行ってくれないとか、ホストファミリーの食事はまずいとか、部屋が汚いとか、ホストブラザーは幼くて生意気だとか、ホストシスターはわがままで嫌いとかなどの、様々な不満と愚痴が始まります。そして、その頃日本で、参加者の両親達は、「今ごろ自分の娘や息子達は、英語を使いながら、ホストファミリーと交流しているだろう。」と考えているわけです。

ホームステイに参加するにあたって、異文化学習とは何であるかを、何も考えることなく申込んで、事前に何の学習もせずホームステイに参加した場合、大同小異、このような事態になることが予測されます。それでも良いではないかと参加する方は思うかもしれませんが、ホームステイ参加者の義務として、受入れ側のホストファミリーに、もっと目をむけて欲しいと思います。

しかし、事前の指導を忠実に実践する参加者は、全く異なります。つまり、ホームステイ期間中にどのようにして学習をしていくかを具体的に学んでおり、そのための準備をしているわけですから、気まずい事態になることがありません。家庭生活では、ホストファミリーとどのような時間を過ごしていくか、何を仕掛けるか、何をして時間を共有し、共に楽しんでいくかなどについて、事前に指導されたとおりに準備し、それを持参し、それらを使って実践するからです。そして、それらを通して学習したものを、記録していくと言う作業を毎日継続すれば、一ヶ月間は見事なまでの異文化体験学習を実践することができます。そして、ホストファミリーも参加者同様に、有意義な異文化を参加者を通して学んだり、体験できるわけです。

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