あいにくの雨模様にも関わらず、第一陣となる宮崎空港発の生徒たちは意気揚々と集まってきてくれました。出発式を終えると、心配そうな表情を浮かべる保護者の方々を尻目に、これから先に待ち受けている新しい世界に飛び込もうと自分自身を奮い立たせるかのように、生徒たちは後ろを振り返ることなくスタスタとセキュリティーゲートを通り抜けていきます。およそ1時間半のフライトは定刻通り羽田空港へ到着。同じ学校・クラスの仲良し3人娘ハルイ・サチ・ミクが、ターンテーブルからてきぱきとスーツケースを取り上げてくれると、高校生2人ハルカ・エリカが宮崎参加者唯一の小学生トワの面倒をみながら全員分のスーツケースをまとめてくれます。出口を過ぎると、一列に並んで「出会いのひろば1」へ向かいます。ここで、九州各県から到着する仲間たちを迎えるまで、ひたすら待機です。沖縄・長崎・福岡・大分からの仲間たちがぞくぞくと合流し、鹿児島から54名の大所帯を迎え、ようやく2013年春わんぱく・ジュニア留学のメンバーが全員集合しました。
チームリッジクレストは宮崎・鹿児島からの26名。期待と不安が入り混じった表情で集まってきました。ここで初めて、A〜Eの5グループ毎に整列。ここではまだお互い少しぎこちない様子で、班長を先頭にぞろぞろと並びます。リムジンバスが待っている駐車場まで、しとしと雨が降る中を急ぎ足で向かいます。最後尾になりながらも、小さな体に大きくて重たいスーツケースを懸命に引いていくハナ・ナツキ・セナ。ほんの1〜2分の移動でも一苦労です。ようやくたどり着いたバスの前では、スーツケースの積み込み作業をする乗務員の方々を積極的に手伝うレイヤの姿。早くもチームリッジクレストの頼もしさを見ることができました。成田空港までは、バス2台に分かれて出発。車内で昼食を取り、引率者から飛行機搭乗までの流れと注意事項の説明を聞きます。渋滞する高速を走ることおよそ1時間20分、バスは成田空港に入っていきます。
成田空港に着くと、いよいよチーム毎に分かれてチェックインへ。今回は成田空港職員の方がサポートに入ってくれたため、パスポートを預けて搭乗券の発行を待つことに。もうすでに2時間も待たされた宮崎組は少しお疲れの様子。そこで、待っている間にグループ毎に分かれて自己紹介をすることにします。具体的な例を提示せず、それぞれ自由に自己紹介をしてください、と伝えると、名前や学年を早口で言ったあとはあっという間に話し声が無くなっていき、5分もしない内にほとんどのグループが静かになってしまいました。搭乗券が届くまでのわずか30〜40分がとても長く感じたこのときは、引率者の私を含め、まだお互い人見知りしていたのかな…。ここで初めて撮影した集合写真は、みんなの笑顔度60%です。パスポートが返却され、ようやく搭乗券を手にすることができました。サポート職員の方の後を1列に並んで付いていき、手荷物カウンターでスーツケースを預けます。搭乗便満席のため、当初はバラバラだった座席が、サポート職員と航空会社のお気遣いにより、ある程度まとまった位置に変更していただけました。緊張の状態で過ごす長いフライトの間、隣にチームメンバーが座っているだけで少し安心できたのでは…。また、荷物が重量制限1kg越えてしまった生徒の荷物の出し入れも、サポート職員の方が手伝ってくださいました。出発前から、親身になってプログラムに携わってくださる方々の有難さを感じる一幕でした。
いよいよ、セキュリティーゲートに向かいます。最年長でホームステイ経験者のヨウタロウを先頭に、出国審査を過ぎた集合場所まで各々向かっていきます。国際線のためか、少し厳しく感じられる金属探知機に煩わされた生徒と私が、みんなに遅れて出国審査のフロアへ着いたときには、カウンターに並ぶ列の中にメンバーの姿はすでに見当たらず…少し焦りを感じながらパスポートに出国のスタンプを押してもらって中に入ると、最後になってしまった生徒と私を待つ他のメンバー全員が、すぐ目の前にいてくれました。海外渡航経験がある生徒も多いせいか、みんな各々でスイスイと進んでいってしまうことを懸念していた引率者の私にとっては、嬉しいサプライズでした。きらびやかな免税店を横目に早歩きで進み、55番搭乗口へ向かいます。ロサンゼルス空港行きのNH006便は17時05分離陸予定。グループ毎に整列して座り、搭乗開始までの間に、これからの流れとアメリカ入国に際しての注意事項の説明、そしてオリエンテーション時にサインをした青色の出入国カードが配布されます。パスポートと搭乗券・出入国カードを一旦カバンにしまって、一時解散。搭乗口前の売店で各々お菓子や飲み物を購入します。集合時間になってちらほらと集まってくるメンバーを見ながら、「グループの人数が揃ったら座って良いですか?」と、次の流れを予測して提案してくれたのはグループE班長のダイジ。私が勝手に決めた役割であるにも関わらず、班長の面々は進んで前に出てきてくれるようになりつつありました。
他の乗客の搭乗を待って、一番最後に飛行機へ乗り込みます。ほぼ定刻通り離陸し、しばらく経つと機内食のサービスです。この便のメニューは穴子飯かチキンソテー。給食時間に似た匂いが機内に充満します。嬉しいことに、バニラアイスのサービスもありました。食事を終えると段々と照明が落とされていきます。この時間にしっかりと寝ておくことが時差ボケ防止につながる!!と何度も説明を受けてはいますが、眠くないのに寝なければいけないというのも難しい話です。映画や音楽を視聴していたメンバーもいましたが、極力寝ることを心がけるように注意を促します。ウトウトするうちに機内は再び明るくなり、今度は朝食のサービス。メニューは鮭の彩り弁当かオムレツでした。まだまだ続く長い一日のエネルギーを補給します。予定より2分ほど早く、飛行機はロサンゼルス空港に到着しました。現地の天気は曇り・気温16度と少し肌寒い模様です。一番最後に降りることを前もって伝えていたにも関わらず、人の流れに流されて先に降りてしまったメンバーが2人。「しまった!!」と感じたのか、本人たちも少し驚いた様子でタラップ内で待っていました。耳抜きが上手くいかず、耳が痛いという生徒も1人。耳抜きの練習といってもピンとは来ないかもしれませんが、前もっての準備・心構えが出来ると良いかもしれません。
税関手前で一旦まとまって、入国に必要な書類と質問への答え方を再確認。まだこの時点では、長時間のフライトに疲れ、アメリカに着いたという実感のなかった生徒たちでしたが、エスカレーターを下って税関カウンターが並ぶ様子を目前にすると、「Sightseeingですよね?!」とか「あードキドキしてきたー」と一斉に活気付いてきました。恰幅のいい税関職員を前に、線の細い日本人の子どもたちはさらに萎縮して小さくなってしまったようにも見えます。それでも、みんな一人ずつしっかりと受け応えをしている様子で、指紋をとって、カメラにちょっとひきつった笑顔を見せて、パスポートを返されると今度は一気にほっとした表情で、荷物受け取りのターンテーブルへ向かっていきます。ここで少しトラブルが発生。1人のメンバーが、食品持込に関する質問で税関職員と上手くコミュニケーションがとれず、日本語を話せる空港スタッフと税関職員に質問攻めにあってしまいます。私が横から入ろうとすると制止されてしまい、一歩離れたところから見守ることに…。緊張しながらもなんとか受け答えを終え、パスポートを受け取って出てきたその表情には不安が滲んでいました。日本人の生徒が続くと同じ流れ作業のように見えても、入国審査は一人一人に対して厳しく実施されていることを思い知らされました。このトラブルのために遅れてターンテーブルへと向かった私たちでしたが、そこにはすでにMNCCのステッカーが貼られたスーツケースのかたまりが。男子が中心となって、全員分のスーツケースを取り上げてくれていたのです。この指示は、ターンテーブルに集まってから行うつもりだったところにまたしても嬉しいサプライズ。ここまで生徒たちに助けられてばかりいる気がします。生徒に助けられたエピソードが実はもうひとつ。税関に生徒たちを並ばせていたところに、グループD美化係のリュウタロウが「さっきみんなで一度立ち止まったところに落ちてました」と腕時計を届けてくれたのです。各自スーツケースを持って再集合した際に、やはりリッジクレストメンバーの落し物であったことが分かりました。班長・副班長だけでなく、一人一人が役割を担ってくれています。
出入国カードを出口で回収してもらい、いよいよ出口へ。AAのDorothyとその旦那様、そしてTCのLauraとLisaが出迎えてくれました。混雑する出口付近で挨拶もそこそこに、2枚目の集合写真をパチリ。このときはちょっとみんな疲れていたのかな。それともとうとうアメリカに着いてしまった…という緊張感だったのかな。笑顔度は50%ぐらいです。リッジクレストへ向かうリムジンバスを待っている間、「あー全部英語だー」なんて声が聞こえてきました。バス乗り場までの横断歩道も、左右左で確認します。メンバーが乗るバスは大きな青いバス。26人がきゅっと後ろに詰めて座っているおかげで、バスの前方はガラガラ。それだけメンバー同士にまとまりが出てきたということかもしれません。共にアメリカ上陸を果たした生徒たちは、日本での静かさと打って変って、賑やかにおしゃべりを続けています。
初めに向かった先は、映画やドラマのロケ地としても使われるという観光地・サンタモニカ。アメリカ大陸を横断する国道、ルート66の西側の起点としても有名な町です。現在は廃線となっているとはいえ、アメリカ南西部の経済・産業の発展に大きく関わったこのルート66は多くのアメリカ人に愛されているそうです。標識デザインのお土産品が多く見られました。海岸近くでバスを降り、観覧車のあるサンタモニカ・ピアまでみんなで歩いて向かいます。真っ白なカモメや背の高いやしの木、日本でも見られるハトの群れでさえも、ロサンゼルスの日差しに照らされてすべてがキラキラして見えます。それまで大人しい印象だったモエとタツロウも、目に入ってくるものすべてに感動して、興奮気味にカメラのシャッターを切る様子がとてもほほえましくありました。ピア(桟橋)に着くと、ルート66の標識の下で集合写真を撮影。見ていただけるとお分かりの様に、笑顔とピースサインが全開です。ようやく笑顔度100%に達しましたね。
集合時間・場所を決めて解散。ランチは自分のお小遣いで買います。初めて英語でする買い物です。バーガーショップは1軒。半数の生徒たちが、TCの2人に手伝ってもらいながら注文をします。宮崎3人娘にタツロウとリュウタロウが加わり、ハンバーガーにホットドック、フライ(フライドポテトとは言いません)など思い思いに購入します。ハナ・ミズキ・ユリナ・ナナコは、あまりお腹が空いていないのか、はたまたスイーツが食べたかったのか、スタンドで売っているチュロスをほお張ります。タコスショップでメニューを熟読しているヤエ・アイミ・タマノ・ノゾミ・セナは、自分たちだけで注文をしようという勇気が感じられました。隣の自動販売機では、ナツキ・モエ・ユミが、コインとお札を駆使してなんとか飲み物をゲットしています。コインの使い方は慣れるまで少し大変かもしれませんが、お互い協力しあえばすぐに覚えられるでしょう。ピアを一通り見回ってバーガーショップにやってきたヨウタロウ・レイヤ・ユウト・ワタルも、注文から支払いまで一人一人頑張りました。商品は名前を呼ばれて受け取るシステムのお店でしたが、TCから渡されて胸につけていたネームが早速役に立ちました。英語訛りで「ヨタロー」と呼ばれるとちょっと気づきにくかったですね。この4人がTCとおしゃべりしている中で、日本人は指で数字を数えるときに親指から折りながら数えることが、アメリカ人にとって不思議だということを教わりました。こんな些細なところにも文化の違いがあることを知りました。ダイジ・コウシロウ・セイイチは揃ってホットドックを注文。メニューの金額と請求された金額が異なることによく気がつきました。表示金額は日本と違って税抜きであること、オリエンテーションで聞いていたことを身をもって知ることが出来ましたね。時間通り、集合場所に全員集まると、班長を先頭に整列して座ります。この流れも、初めのころよりずっとスムーズに出来るようになりました。
Big Blue Busに戻ると、Ridgecrestまで約3時間ノンストップで向かいます。ここで、TCの2人がホストファミリーから預かっていたという生徒宛のお手紙が配られます。日本でも受け取っていたのに2通目を書いてくれていたり、贈り物を用意してくれているところも。もちろん、こういった行為は強制で行われているわけではなく、TCに手紙を預けられなかった家族もあります。お手紙を書いてもらったことに対して、感謝の気持ちを忘れないようにしたいですね。さすがに疲れと眠気が襲ってきたのか、ウトウトと眠りに落ちる生徒もちらほら。ホストファミリーとのご対面まであともうしばらくの辛抱です。サンタモニカの町を抜けると、ハイウェイはどんどん砂漠地帯を進んでいきます。といっても砂丘が広がっているわけではなく、遠くに木が生えていない裸の山を望むだだっぴろい平原がずっと続きます。そして段々と荒い岩肌の渓谷に入ります。ともするとすぐに飽きてしまいそうな単調な風景にも、風力発電のための風車畑が広がっていたり、空軍基地の施設があったりと、しばしば発見があります。
日本を出発してからおよそ17時間、各県からと考えると、20時間以上に及ぶ長い長い旅の終点、リッジクレストには18時に到着しました。ウェルカムパーティーの会場である教会にバスが停車し、それぞれスーツケースを引きながら入り口に向かうと、そこには長旅の疲れも吹き飛ぶ光景が待ち受けていました。ホストファミリーたちがウェルカムボードや風船を準備して出迎えてくれたのです。自分たちが受け入れる生徒の名前を大きく書いたウェルカムボードは、かわいくデコレーションされており、中にはイースターに合わせてウサギのぬいぐるみをプレゼントしてくれる家族もいます。生徒たちだけでなく、ホストファミリーの皆さんも、生徒たちに会えることを心から楽しみにしてくれていたことを、生徒たちは肌で感じたのではないでしょうか。空港からなんとか引っ張ってきた重い重いスーツケースを、ホストファザーが軽々と車に積み込んでくれます。ホストブラザーやシスターも、みんな笑顔でそして興味深そうに話しかけています。出会ってすぐに「She is so nice!」と喜びの声を上げる女の子もいました。
教会の2階には、いくつものテーブルとピザが用意されており、家族揃って席について自己紹介が始まりました。生徒たちは、いよいよ本格的に英語を聞いて、話さなければならない状況に少し戸惑いながらも、辞書をひきながら何とか自分の気持ちを言葉で伝えようと頑張っていました。引率者として、そして写真を撮らせていただくために、一家族ずつにご挨拶をして回ると、生徒たちの緊張感が伝わってくると同時に、ホストファミリーたちの歓迎の暖かい気持ちを感じられることができました。早速、週末の計画を話し合ったり、ご近所の家族同士でおしゃべりに興じたりと、出会いの興奮冷めやらぬ時間が続きました。
1時間ほどすると、それぞれに席を立ち帰路に向かい始めました。生徒たちはとにかく付いていく、もしくは連れられてゆく、といった感じでありながらも、はにかんだような笑顔を見せながら各家庭へと帰っていきました。
20時間以上もの長い旅をようやく終えた生徒たちですが、プログラムの本番はここからです。さっそくTCから宿題が出されました。その内容は、「自分は何時に起きるべきか」「朝食はいつ誰が準備して食べるのか」「シャワーはいつ浴びるのか」といった、これからの生活に必要な家族のルールを知るためのものです。「参加してよかった」と思える、そしてホストファミリーたちに思ってもらえるホームステイとなるように、メンバー全員が健康に笑顔で過ごせること願っています。
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